無効電力とは?そして、その課題とは。
無効電力は電力のなかでも最も複雑な概念のひとつで、あまり詳細には語られませんが、電力システムにおいて重要な一側面であるため、理解のために時間を割く価値はあります。そのために、まず基本的な物理法則を確認していきましょう。
別の磁場で磁石が回転することにより、交流電流が発生します。蒸気発電では高圧蒸気によりタービンが回ることで固定子内に取り付けられている電気子と呼ばれるローターが回転します。発電機は2本の磁極で毎分3,000回転し、50Hzの周波数で発電します。
抵抗のみがある回路では、電流と電圧の波形は同相、要するに同時に最大と最小に到達している状態にあります。しかし、回路内にキャパしタンスとインダクタンスがあると、最大と最小の電流と電圧が発生するのは同時ではありません。この状態を位相といいます。純粋な誘導性回路では、電流は電圧から90°遅れる一方、純粋な容量性回路では、電流が電圧に対して90°進みます。
これは、エネルギーがコンデンサーとインダクターに蓄えられる一方、抵抗器では消費されるためです。
コンデンサーは電圧を一定に保つために充電と放電をし、エネルギーを電界に蓄えます。エネルギーはコンデンサーが充電するときに蓄えられ、放電するときに電源に戻ります。この動きが電力波形が電圧波形を先行させます。
インダクターは電力を一定に保つために、磁界を広げたり崩壊したりすることで、磁界にエネルギーを蓄えます。エネルギーは磁界が広がる時に蓄えられ、磁界が崩壊する時に電源に戻ります。
無効電力はシステムの電流量の機能で、回路では消費されず、電源にすべて戻り、それは無効電力はしばしば回路の中を行ったり来たりするエネルギーと説明されるためです。その意味で「有効」ではなく、例えば灯りを点けるなど、実用的な場面で役に立たないということです。
有効電力は電源に戻らずに消費されます。誘導性と容量性の要素をもつ回路内では、交流電流は常に変化し続け、磁場と静電場の拡大と縮小のサイクルは常に発生します。詳細な説明については、こちらでご確認ください。
インダクターのような、電流により発生する磁場によりエネルギーを貯蔵する機器は無効電力を吸収すると言われ、コンデンサーのような電界によりエネルギーを貯蔵する機器は無効電力を発生すると言われています。
電力グリッドで無効電力が重要な理由とは
同期調相機のタービンの回転により発生する電力の電流と電圧は周波数により変化しますが、この周波数は有効電力の需要と供給のバランスで変わってしまうのです。
需要が供給を上回ると、オームの法則によりドレイン電流が増え、電圧が下がります。これは発電機トリップやモーターのオーバーヒートを引き起こし、他の装置を故障させます。
同様に無効電力が吸収される無効電力より大きいと、電圧が上昇しますし、その逆も同じです。有効電力のための活線の延長ではなく、活線の削減により無効電力の、グリッドを動き回る能力は制限されます。要するに、有効電力は別の地域の需要を満たすために発電するといった使い方ができるが、無効電力は地域ごとにバランスを取る必要があるということです。イギリスのケースのように同じグリッドの地域間で、無効電力は大きく変化します。
典型的に発電機は有効電力出力の制御可能変数を制限しています。需要の変化に対応するため、電力システムオペレーターは需要変動に応じて発電機ごとに起動や停止の指示をする必要があります。しかしながら、発電におけるこれらの段階的な変化は需要の変化にぴったり沿ったものではなく、より漸増的な傾向にあります。これは電圧を安定化するにはその他の技術が必須であることを意味します。
異なる発電機の出力や特性の違いに加えて、システムオペレーターはそのインダクターとコンデンサーの特質を利用し、電圧の変化率を制御します。
無効電力の電源は同期発電機と同期調相機や分路コンデンサーやインダクターなどです。
電線を通る電流は磁束を生み出すので、送電線は無効電力も発生します。低負荷の送電線は無効電力の発生源として働き、一方、高負荷の送電線は無効電力の吸収装置として機能します。
無効電力の他の吸収装置は誘導モーターや変圧器、低励磁同調機などです。
エネルギートランジションの電圧制御への影響
発電設備の脱炭素化による電圧制御への影響には3つの主要な方法があります。これまでの需要の多様化に加え、供給の大半は風力や太陽光発電など多岐にわたっています。これにより、需要と供給のバランスをより難しくしています。
同時に、配電レベルに接続する発電量が増加しています。これはまるで送電設備に需要があるかのように振る舞い、特に夏の太陽光発電の高出力と、季節的な需要減の影響と相まって、電圧上昇の影響を持ちます。これにより電圧が超過レベルに達するのを防ぐために無効電力を吸収する必要性が高まります。
そして、従来の無効電力の発生源と受信装置である、同期発電機は次第に断続的な再生可能エネルギーの発電に取って代わられつつあります。結果として、過去の歴史と同様に、有効電力ではなく、無効電力のみを提供するために同期をするには、補償が必要となります。これは無効電力と有効電力の調達を分け、電力供給会社による力率がゼロかゼロに近い状態の運用で、無効電力の提供を奨励するという、新たな市場の必要性を促進します。
この柔軟性は同調機を無効電力を制御する有効なツールとします。クラッチの追加は発電機を有効電力発電のオン/オフの切り替えを可能にします。一方で、無効電力は発電されたり吸収されたりすることを可能にします。同様のレシプロエンジンでも同様の改造は可能で、無効電力が必要な時のみ、駆動機はクラッチにより完全に切り離され、有効電力が必要な時に自動的に再嵌合することを可能にします。
グリッド安定性の提供を可能にする老朽化した従来型の化石燃料発電設備の改造がエネルギートランジションの醍醐味になります。同じ設備を再利用することで、最も純粋な形のままリサイクルしながらもエネルギートランジションを可能にすることはとても満足がいくものです。
– Mick Farr, Chief Executive Officer at Triton Power
2021年に、National Grid Electricity System Operator(NG ESO):イギリスのシステムオペレーターは新たに6年間、Triton Power's Deeside Power Stationとパートナーシップを結ぶことで、無効電力の提供と慣性グリッドサポートサービスの提供を始めました。
Flinstshireのコンバインドサイクルガスタービン発電所は、元々2機のAlstom 13E2ガスタービン、2機のCMI Heat Recovery Steam Generators HRSG、1機のAlstom steam turbineから構成されており、その発電所は2018年3月から停止され、保存されてきました。2020年1月に安定化契約により、蒸気発電機とタービンは保存状態のままですが、2機のガスタービンはグリッドへのサポート提供することになりました。グリッドからの少量の電力を使用することでローターを回転させ安定供給することで達成されています。